映画の話

映画 覚え書き

白鷺

この映画の素晴らしさは、どこまでも薄っぺらくて浅くて安い理想主義にゾッとしつつ、その軽薄さを幽玄(ゆうげん)?みたいな映像美で見せているところだ。だから、グロい表現のないホラーというか。

佐野周二の下品な金持ち役に限らず、ほとんど全てのキャラが存在の耐えられない軽さ。というか、登場人物も映画の画面も水で薄めたカルピスのように覇気がない。なのだが、そこがまた、水彩画の幻覚をみているような不思議な感じなのだ。そうして妙にサラリーマン社会の表面的なよそよそしい優しさや冷たさとかパワハラとか...会社付き合いというか...そんなところが生っぽい

 

衣笠貞之助 初鑑賞。冒頭の日本画がシームレスに写真に切り替わって墓場の鬼太郎とかルチオフルチみたいな死体の臭いがする色調に依る巨大なお屋敷のセットの中で山本富士子が浮かびあがる感じ(一部 溝口健二祇園の姉妹の冒頭の屋敷の競売シーンのバタバタにも似て]は見事だった。

 

とにかくダリオアルジェントばりの嫌なサイケ色遣いとヒッチコック的な覗き部屋のような視覚効果。ブライアンイーノのアンビエントの世界を映像化したような静かな狂気と大正浪漫と荒城の月みたいな純愛路線がジグザグに交錯し、何不自由ない環境で育ったお嬢様が少しずつ少しずつ静かな時間の流れのなかで不幸になっていく。感覚としては、ロバートアルトマンのイメージズや雨に濡れた舗道の嫌な感じにも近い

 

しかし、とても哀しく儚げな純愛悲恋物語を観ながら、僕は強烈な眠気に襲われて最期のほうは寝てしまった。この映画の佐野周二高松英郎みたいな美しさと儚さに対する鈍感さやデリカシーのなさ 俺もあるんだよな。